「台湾の少年」

あの岩波書店が漫画を出版か、と思ったが、グラフィックノベル、だそうです。でも体裁としては漫画だと思う。

 

「台湾の少年」(全4巻)
岩波書店 游珮芸、周見信 著 倉本知明訳


日本統治時代の台湾は台中に生まれた、蔡焜霖の一生をたどっているが、それすなわち激動の台湾近代史。


日本式の初等教育を受け、日本の敗戦の後には大陸から撤退してきた国民党、蒋介石政権のもとで、役場の職員として社会に出る。ところが無実の罪で逮捕されて収容所送りとなり、十年もの長きにわたって強制労働と思想教育を受けることになる。
ようやく出所した後、幼馴染と結婚し、雑誌の編集者として活躍するが、これも一筋縄でいかず、一度は全てを諦めかけたが、再び実業の世界で成功を収めるという、まあ本当に浮沈の激しい人生。


もし彼が生まれたのが、この時代でなければ、もっと平穏な人生を送れただろうにと思ってしまうが、それは運命のなせる業。しかしある意味、収容所での経験が彼の後半生を支えたとも思える。
それほどまでに第二巻で描かれる、緑島での収容所生活は辛く、厳しい。国家レベルでの疑心暗鬼ともいえる、反共の嵐、白色テロ。少しでも怪しいと思われた者は次々と連行され、投獄され、処刑された者も少なくない。


侯孝賢の映画「悲情城市」で描かれたのもまさにこの時代だが、作中では語られなかった、連行された後に文清がたどったであろう運命が、この収容所での生活なのである。
幸いにも蔡焜霖は出所できたが、その後も長年にわたり、国家権力の監視を受ける羽目になる。この白色テロについて国が正式に謝罪するのはずっと後のことだ。


とはいえ、現在の台湾社会は、日本よりも風通しが良さそうだ。
あの暗い時代の記憶が、もう二度と同じ過ちを繰り返すまいと、人々に思わせているのかもしれない。そして、国が正式に謝罪した、という事も大きいだろう。
かたや日本は、自由を享受してきたように見えるが、実際は何か大きなものに縛られている。その事と、何かにつけ責任のがれをしてはぐらかし、潔い謝罪などとは無縁の国家である事と、無関係とは思えない。