「グレート・インフルエンザ」

何となくコロナの事を忘れつつある昨今。インバウンドもすっかり復活しちゃったし、というわけで

 

ジョン・バリー「グレート・インフルエンザ  ウイルスに立ち向かった科学者たち」(上下) ちくま文庫

 

インフルエンザの何がそんなにグレートなんじゃい、という話ではなくて、20世紀初めに猛威を振るい、「スペイン風邪」と呼ばれたインフルエンザの話。

この呼び名からついつい、スペイン発祥かと思われがちなこの感染症は、実際にはアメリカが流行の起点だったらしい。

ただでさえインフルエンザの流行など大変なのに、当時は第一次世界大戦のさなか。そしてコロナであれだけ避けろといわれた「密」のかたまりともいえる軍隊が、文字通りこの病気の温床となって、爆発的な流行をもたらした。

といっても、ただのインフルエンザでしょ?と思いきや、この病気の犠牲になるのは中高年よりも若者が多かったという。さらに、つい先ほどまで普通にしていた人が、いきなり発症してあっというまに亡くなる、という事例が頻発したり、人々にとっては紛れもない恐怖となった。

患者の数が多すぎて、あっという間に医療崩壊。死者を弔う事すらできず、ただひたすら家にこもって人との行き来を絶ち、嵐の過ぎ去るのを待つ。

読み進めるうちに奇妙な既視感にとらわれるのは何故だろう、と思っていたら、何のことはない、コロナ禍における我々の生活にそっくりなのだ。

医療水準の違いはあれど、政治レベルの判断や、正しい情報の有無が患者数に大きくかかわるところは変わらないし、権力を持つ立場の人間が、貧困層の窮状を自業自得と捉えて救いの手を差し伸べなかったり、流行が終息しても深刻な後遺症に苦しむ人が大勢出たり、え?これコロナの話だったっけ?という気持ちにさせられる。

 

とりあえず市民にマスクを配布しよう、という街もあったらしく、いやでもアベノマスクを思い出してしまう。何が呆れるって、百年前レベルの事を巨額の税金つぎこんでやってた、我が国の政治のお粗末さ、って奴でしょうか。

 

それにしても、医療水準は百年で随分上がったはずなのに、インフルエンザの感染を100%食い止める方法って未だにないのよねえ。そして決定的な治療薬もなくて、結局たよるべきは己の免疫だけという状況は変わらない。

とりあえず、夜更かしせずに、寝るか。