プロデューサー、って何なんだろうね。
いわゆる華々しい肩書の筆頭格というか、世の中俺が回してる、ぐらいの時代の十歩先を行くアンテナの鋭さを誇り、幅広い人脈と見識、そして度胸と勝負強さを全て兼ね備えた人、というイメージがあるけれど、実際のところはどうなのか。
というわけで、レジェンド級プロデューサー、川添象郎の自伝「象の記憶」(DU BOOKS)を読む。
サブタイトルに「日本のポップ音楽で世界に衝撃を与えたプロデューサー」とあるように、ユーミンを発掘しただとか、YMOの仕掛人とか、いちいち話が世界レベル。
そもそも、この人は生まれが上流階級で、曾祖父が伯爵、親がこれまた伝説のイタリア料理店「キャンティ」の経営者といった毛並みのよさ。それで十代の頃から渡米してショウビジネスの世界に身を投じ、波乱万丈のサクセスストーリーを繰り広げるのだから、面白くないはずがない。
そう、面白くは、ある。
しかしまた、清々しいほどに奥行がない。
喩えて言うなら、これは豪華絢爛たる夏休みの日記で、様々な経験が語られはするが、最後は必ず「楽しかったです」で締めくくられ、わざとじゃないかと思うほど、自分の内面とは向き合っていない。勢いはあるが、ほぼそれだけ。
見方を変えれば、人生すなわち夏休みで生きてきた幸せな人、だろうか。
この本の正しい読み方は、彼と時代を共にした人々の、記憶ツアーガイドブックかもしれない。
サイケブーム、あったあった!
アルファレコード、何故かSFマガジンに広告出してた!
ポリス、夜ヒットに出てたなあ!
こんな具合で、私はけっこう、眠っていた記憶を呼び起こされた。
最大の衝撃はカナダの美少年、ルネ・シマールだろうか。姉がレコードを買っていたが、まさかの仕掛人だったとは。
そういう意味では発売から一ヶ月で増刷、というのもうなずける。
しかしやはり、熟読するタイプの本ではない。