老いてなお、の青空

もう何年も前、友達から「あなたは年を取ったら、中野翠みたいなお婆さんになると思う」と言われたことがある。何となく、そうかもな、と思った。

 

当時、私はたしか三十代で、中野翠もまだ「お婆さん」という年齢ではなかったが、月日は流れ、1946年生まれだという中野翠は現在、古希を超えて立派にお婆さんとなられた。

 

そんな彼女が2019年、すなわち齢73の年に出した、ずばり「老い」について語った本

 

中野翠「いくつになっても トシヨリ生活の愉しみ」文藝春秋

 

彼女のエッセイはかなり読んでいるが、軽い文体と、好き嫌いが激しくても説教臭さのないところが良くて、気の置けない友人と語らっているような気分になる。

元祖おひとりさま的存在で、組織や家族といったしがらみに囚われず、己の「好き」を貫いて身軽に生きてきた彼女にも、「老い」はひとしく訪れる。

そんな彼女にとっての、範としたい先輩老人の話、忘れられない老人映画、老人のファッション、不安なこと、そして老いても日々を愉しむためのあれこれと、最後まで一人を愉しむための心構え。

虚勢をはるでもなく、卑屈になるでもなく、多少はじたばたしながらも、少しずつ自分の中の「老い」と折り合いをつけながら、やっぱりやりたいようにやるしかないなあ、と納得しての一人暮らし。

 

私は現在同居人がいるが、一人暮らしだった数年前までは、彼女がいま過ごしているように、淡々と年を重ねてゆくのだろうと思っていた。そして今でも、とどのつまり人はひとりだし、自分のことは自分で引き受けて生きるのだと考えている。

 

「できるだけ面白く楽しく。心の青空を探して行こう」

 

この心構えにふさわしく、表紙も遊び紙も爽やかなスカイブルーでまとめられた、すっきりとした読後感の本だ。