「漂流」

土曜の出勤は

少しだけゆるい感じで

昼休みには

コーヒーも飲みたいと思い

ふだんあまり行かない

カフェ系の店へ

12時15分ごろ入り

パスタランチを注文し

雑誌など読みながら

まったり過ごしていると

まったり

まったり…

もう12時40分過ぎてるんですけど?!

という頃になってようやく運ばれてきた

しかし

12時50分には店を出ないと

職場に戻れない

味わう余裕もなく

早食いチャンピオンの勢いで食べました

残すという選択肢は、ない

食後のコーヒーは棄権

しかし誰も責められない

前に来た時は

遅いということもなかったんだけど

今日は一体何が起きたのか

これで980円という不条理

 

などという事が

本当に些末だと感じられるような本が

角幡唯介「漂流」(新潮社)

フィリピン沖で遭難し

三十七日間の漂流を経て生還したという

沖縄の伊良部島出身の漁師

彼についての本を書こうと

取材を始めた著者は

その漁師が奇跡の生還の後

ふたたび漁に出て

行方不明となった事を知る

伊良部島だけでなく

フィリピンにも渡り

自らマグロ漁船にも乗って

取材を重ねるうちに見えてくるのは

陸の人間とは大きく異なる

海に生きる人々の世界

過去でも未来でもなく

現在だけに向き合い

死と隣り合わせに日々を送る

どれだけ苛酷な仕事であっても

ここでしか生きられないと

海へと戻ってゆく男たち

これを読むと

なにげなく買っていたツナ缶一つにも

とんでもない重みを感じてしまう

そして

ええじゃないか少しぐらい

料理が出るのが遅くても

次はコーヒーまでちゃんと飲んで

堂々と遅れて戻ってやろうと

思うのでした