「笑い」の変格活用

けっこう評判の映画

「ジョーカー」を見る

バットマンシリーズは

細々と見ておりますが

暗い世界観なのよね

悪役のこじれ方も

気合いが入ってるというか

ペンギンさんとか

キャットウーマンとか

それぞれの背景がダークなんだけど

ここへ来て決定打ともいうべきか

悪役誕生前夜

それだけで一本撮ってしまった映画

 

ジョーカーといえばジャック・ニコルソン

私はそういう世代だが

これはもう上書き決定ですね

ホアキン・フェニックス

体重落としてあの体型を作ったのもすごいが

 一般的なハリウッド映画はとかく

若く、美しい俳優を主役に据えているのを

ここまで中年のダミダミ男が

主役として出ずっぱりの映画って・・・

なんか

初めて「惑星ソラリス」を見た時の

衝撃が甦ったよ

ソビエトじゃこういうくたびれたおぢがSFの主役なのか?」

そう思ったもんだが

今回の「ジョーカー」は近いものがある

これも時代ってもんですかね

 

音楽もよかった

タイトルが出たところから

節目ごとに

チェロの響きが運命の軋む音のように

こりゃ悲劇だよ~と

訴えかけてくるのである

真面目なんだか不器用なんだか

狂ってんだかマトモなんだか

見る度に微妙に異なる姿を映すホアキンの演技

現実と妄想の境目も定かじゃないが

それすなわち真実のジョーカー

彼は「笑い」に囚われた人間

ポジティブな言葉であるはずの「笑い」が

彼にとっては制御不能な「苦痛」であり

コメディアンとしての自己実現に至る「目標」であり

他者から容赦なく浴びせられる「敵意」でもある

その全てをねじ伏せ、破壊し尽くした先で

ようやく浮かべる血まみれの哄笑

「笑い」を多彩に変格活用した

本作を見終わって

暗い気持ちになるかというと

さほどでもなく

妙な気力が体内にたまるのである

 

ところで

ジョーカーが地下鉄で初めて三人殺した後

公衆トイレに飛び込んで

妙なダンスを踊るシーン

素晴らしかったですね

あれを見るためだけに

もう一回見たいと

一瞬だけど思ってしまった