「狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ」

夫の浮気が発覚し

ブチ切れた妻が心を病む

妻の狂気に苛まれ

自らも極限まで追い詰められる夫

そして二人は一緒に精神病院へ

 

島尾敏雄私小説「死の棘」について

読んだことのない私は

大体こんな内容だと把握している

夫の浮気云々については

まあそう珍しくもないと

思ってしまうが

この夫婦の特殊なところは

かつて海軍の特攻隊長と

部隊が駐屯した島の娘として出会い

妻は戦後、本土との行き来を断たれた奄美から

親を捨てるようにして闇船に乗り

嫁いできたという過去にある

一度は死をも覚悟した二人の

結婚生活はしかし

戦時下の一種異様な高揚とは異なり

荒んだものとなった

 

夫の視点から書かれた「死の棘」

その中で嫉妬に荒れ狂う妻、ミホに焦点をあて

彼女の評伝として書かれた

梯久美子「狂うひと 「死の棘」の妻・島尾ミホ」(新潮社)

従来「ノロの家系に生まれた南の島の少女」として

神話的存在のように語られてきたミホ

この本はそんな彼女のイメージを解体し

等身大の女性として再構築する

その過程で見えてきたのは

創作と現実の境界を敢えて攪乱してしまう小説家の夫と

彼に苦しめられながらも

心の深い場所で相手の願望を察知し

狂気に憑りつかれた女に変貌してみせた妻という

唯一無二の男女の姿である

 

それにしてもこの夫婦

一つのネタで延々と何十年も

すごいよなあ

などと考えてしまうのだけれど

私は私小説というのが好きではなくて

その理由が

「へーそうなんだ」と思って読んでいると

「いやいやその部分は小説、創作ですから」という

逃げ、ともとれるご都合主義が混在し

すっきりしないのである

書いてる本人はそれでいいかしらんが

書かれた親族などは

「創作ですから」と主張する場が与えられず(たまに反撃もあるが)

世間からは「へーそうなんだ」と思われる

何とも不公平な話だ

まあしかし

私小説の一部は現在

エッセイ漫画という姿に

進化を遂げたのかもしれない

漫画になると「へーそうなんだ」も

「とはいえ漫画だから」で

あまり深刻に考えなくなるのが不思議である

 

ところで

先月入手した

ペーパーバックの「1Q84」

やはり分厚すぎるが

なんとか風呂で読んでて

現在68/1318ページ

とりあえず記録しとく