「三体」は隷書がよく似合う

ようやく読みましたよ。「三体」三部作。 最初に刊行されたのが2019年だからもう五年近く前ですか。 ずっと横目で見てたんだけど、こういう大作を読むのはある意味タイミングも大切なので、まあ時が熟したという感じで。 ちょうど文庫版も出るらしいし。 と…

「グレート・インフルエンザ」

何となくコロナの事を忘れつつある昨今。インバウンドもすっかり復活しちゃったし、というわけで ジョン・バリー「グレート・インフルエンザ ウイルスに立ち向かった科学者たち」(上下) ちくま文庫 インフルエンザの何がそんなにグレートなんじゃい、とい…

納豆は誰のソウルフードか

今やさほどでもないのかもしれないが、日本に住む外国人に「納豆は食べられますか?」という質問は、かなりの「あるある」ではなかろうか。 この場合、観光客は含まれない。というか、海外からの短期旅行者に納豆なんか食えるわけねえし、といった根拠不明な…

いったい何回目の攻殻

見てきましたよ。 劇場版「攻殻機動隊SAC_2045」シーズン2 はっきり言ってもうシーズン1の内容ほとんど憶えてない。 エヴァンゲリオンみたいに復習してくれるとありがたいんだけど、まあまあ、思い出したところもあれば、忘れててもさして問題ないというか…

散歩の記憶

十五年ほど前、それまでの職場を辞めた。家の事情もあってすぐには次の仕事につかず、半年ちかく無職で過ごした。 失業保険が入るので、贅沢しなければ日々食べる事には困らない。だからといって遊び歩くほどの余裕があるわけでもない。 落ち着くところはお…

老いてなお、の青空

もう何年も前、友達から「あなたは年を取ったら、中野翠みたいなお婆さんになると思う」と言われたことがある。何となく、そうかもな、と思った。 当時、私はたしか三十代で、中野翠もまだ「お婆さん」という年齢ではなかったが、月日は流れ、1946年生ま…

「腸よ鼻よ」

しばらく前、せっかくの休みなんで、焼肉と北京ダックを中一日あけてがっつり食べたら、消化不良で十日ほど苦しんだ。 ふだん食べつけないゴージャスなものは、この年になると中一日では無理だという事を、身をもって感じた。 なんつうか、昔は一日で治った…

「ブラックボックス」

今は昔、そう、バブルの頃。就活中の私が受けた、とある会社の筆記試験。漢字の読み方を書け、というのがいくつかあった。 ふだん読めない漢字にはあまり遭遇しないのだが、その時は、あった。 忖度 なんじゃこりゃ。 それまで見た事もない単語だったので、…

「良いこと」もしたのか?

YouTubeで音楽を聴いていると、コメント欄に「日本人でよかった」とか「これぞ日本の精神性の高さ」のようなものをたまに見かける。 まあ確かにそれらの曲は日本の伝統的な様式の延長線上にあったり、日本人が作ったり、歌ったりしているのだけれど、その曲…

夢に出てくる

ワグネルのプリコジン、死亡が確認されたそうで。 搭乗していた飛行機が墜落、の一報を聞いたときには、林彪事件再びか?と思ったが、似てるような違うような。まあしかし独裁的な権力者に歯向かった者のその後、という点では似ている。 なんかまだまだ泥沼…

「身体のいいなり」

顔を合わせるたびに「もう疲れちゃって、しんどいのよ、全然やる気が出ないの。気がついたら寝落ちしてたりして」と、体調不良を切々と訴える知人がいる。 彼女とは同い年なので、そうだね、この年になると疲れがとれないねえ、と相槌をうつのだが、「あなた…

肉が肉であるために

アメリカの作家、カート・ヴォネガットの代表作に「スローターハウス5」という小説がある。映画化もされた名作だが、もしこのタイトルがまんま直訳の「第五屠畜場」だったら、日本でそこまで売れただろうか。 そう思ってしまうほど、「屠る」という言葉はイ…

裏はどこへ行った

お盆休み、どこに行っても混んでいるので、とりあえず読書。 北山修「最後の授業 心をみる人たちへ」(みすず書房) 北山修といえば「帰って来たヨッパライ」。と思ってるうちに月日は流れ、フォーククルセダーズから精神科医になり、九州大学の教授になった…

納涼!ミッドサマー

連日の猛暑に加えて台風襲来。 外出もままならないので、映画でも見るか、しかも寒くなりそうな奴を。 というわけで「ミッドサマー」(アリ・アスター監督 2019)。 思わぬ形で家族を失って間もない傷心のダニーは、ボーイフレンドのクリスチャンたちとスウ…

バケットリスト

死ぬまでにしたい事リスト、というと何だか大げさに聞こえるが、英語ではバケットリスト、と言うそうで、うむ、ロゴスの国の住人、欧米の人々の思いつきそうな事だと感心する。 日本社会でいきなり「死ぬまでにしたい事」とか言い出すと、この方は余命宣告さ…

「ディア・ピョンヤン」

本来そうあるべきではないのだろうが、北朝鮮のミサイル発射に慣れつつある。 またか、この忙しい時間に。そう思いつつ、もし自分の住むこの場所に照準が合わされていたなら、とっくに着弾してるな、とも思う。 非常に難儀な隣国だが、そこがもし自分の祖国…

「象の記憶」

プロデューサー、って何なんだろうね。 いわゆる華々しい肩書の筆頭格というか、世の中俺が回してる、ぐらいの時代の十歩先を行くアンテナの鋭さを誇り、幅広い人脈と見識、そして度胸と勝負強さを全て兼ね備えた人、というイメージがあるけれど、実際のとこ…

塀の中で本を読む

詳しくは言えないが、仕事で刑務所に服役中の人とやりとりする事がある。 本来私の担当ではないのだが、上司が回してきた。 率直な感想は「やめてよ~」。犯罪者とかかわるなんぞ、たとえ仕事でも避けたいのに、なんでこっちに回してくるのだ。正直なところ…

「台湾の少年」

あの岩波書店が漫画を出版か、と思ったが、グラフィックノベル、だそうです。でも体裁としては漫画だと思う。 「台湾の少年」(全4巻)岩波書店 游珮芸、周見信 著 倉本知明訳 日本統治時代の台湾は台中に生まれた、蔡焜霖の一生をたどっているが、それすな…

「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」

3月28日に教授が亡くなって、はや三ヶ月。 悲しみにくれて色んな曲を聞きまくる、かと思っていたが、自分でも意外なことに、少しでも教授の訃報に関するニュースなど流れようものなら、極力、見ない、聞かない。要するに、この世界に教授がいない、いなく…

「自殺会議」

のっけから不穏なタイトルである。 もしやアレか、どのような方法で自殺するのが一番・・・て奴か、と思いきや、ベクトルは逆方向らしい。 末井昭「自殺会議」(朝日新聞社) 著者の名を目にして、ああ、あの、と思う人はある意味自殺の「通」だろう。 幼い…

「抗日戦争回想録 郭沫若自伝6」

1の次は2。 誰しもそう思うところだが、1からいきなり6に飛ぶ。 「抗日戦争回想録 郭沫若自伝6」(平凡社東洋文庫) 自伝1ではまだ血気さかんな少年だった郭沫若、6ではすっかりいい大人。押しも押されぬ文化人であり政治家となっている。 ここで書かれ…

「妹とバスに乗って」

ベスは三十代後半。知的障害を持つが、アメリカのとある街で一人暮らしをしている。働いていた事もあるが、今は無職。公的扶助をうけている。 ベスの日常は、市内を走るバスに乗ることを中心にまわっている。 バス路線と時刻表と運転手のシフトを完璧に記憶…

「私の幼少年時代 他 郭沫若自伝1」

自伝が好きだ。 第三者による評伝の方が客観的だし正確なのだが、やはり本人が本人を語る、主観のもたらす認識の歪みこそが味わい。さいきん話題のAIの作った文章がたとえどれだけ理路整然としていても、やはり生身の人間のフィルターを通して語られる言葉の…

「女のお悩み動物園」

GWが終わって一週間。あー会社行くの面倒くせえ、という人も多いかと思う。 コロナの五類移行に伴って、リモートから出勤という職場も増えたと聞くが、大丈夫、わが社は非常事態だろうが何だろうがずっと出社してたし、社長はずーっとマスクしてなかったよ。…

「さよなら、カルト村」

気がつけば大型連休。 うちの職場はカレンダー通りなので、5月3日から7日までの五連休ですな。 前半は外出が続いたので、ちょっとインドア派に戻るか。というわけで読書。 高田かや「さよなら、カルト村」(文藝春秋) エッセイ漫画、にしては文字の多い…

「いとも優雅な意地悪の教本」を京女が読む

先日、武田砂鉄の「わかりやすさの罪」を読むうちに、橋本治のことを思い出していた。 橋本治の著書というのは、読んでいる間は「あーなるほどなるほど」と、判ったような気持ちになるのだけれど、読み終えてみると「で、なんだっけ」と考え込むことになる。…

「わかりやすさの罪」

いい年なもんで、今時の言葉に「なんじゃこりゃ!」と驚くことはままあるが、驚きつつも、よくできてるねえ、と感心したのが「わかりみ」という言葉。 あえて解体してみると、「わかる」という動詞と、形容詞、形容動詞の名詞化に使われる「み」という接尾辞…

教授、ありがとう

風呂上りのルーティンで、パソコンのニュース画面を開いた。 「坂本龍一さん死去」 我が目を疑うって、こういう事なんだろうか。一瞬、は?となって、それからようやく事の重大さに気づき、「えーっ?!」と叫ぶ。 正直なところ、教授は12月の配信ライブで…

「テヘランでロリータを読む」

知ってるようで知らないと言えば聞こえは良いが、実際には知ろうとすらしていなかった。 それがイランという国に対する、私の向き合い方だったと、今更ながらに気づかせてくれたのがこの本。 著者、アーザル・ナフィーシーはアメリカの大学で英米文学を教え…